水堀 祭典親睦委員会(T-Backs)

〆切の役割

 〆切は最後に堂入りする28番目の祭組「元門車」の御役目です。 〆切の役割は、渡御の際、大鳥居付近で神輿の後を追う裸の群衆が、神輿に不敬がないよう制止することで知られていますが、出御の神事にもかかわっています。 〆切の集団が神社に到着すると、矢奈比賣神社の幣殿では出御のための神事、渡御奉告祭が始まります。 〆切の榊は渡御が出御する参道を清め、神域と現世を隔てる結界を切り、神輿が神社から出御kすることを促すとも言われています。

三番觸からの離脱と出立

 元門車は〆切のため、三番觸梯団から離脱し、会所に戻ります。 会所では一息の休息もないまま、〆切の準備にかかります。 「天神社〆切」と記された黄色の襷と、神社から拝領した「矢奈比賣神社」の朱印が押された御幣をつけた榊が配られ、裸衆かは襷をかけ、手拭いを頬かむりにし、榊を手に持ち、会所前で待機します。 〆切の集団を指揮する〆切の長が手にする提灯が高く掲げられ、いよいよ出立です。

お山が動く

 「行くぞ」の〆切の長の声に、裸衆が「おお~」と答えます。 会所番や町の人たちから「頑張れ~」の声援が送られ、〆切の集団は威勢のいい掛け声とともに神社に向かいます。 山車の後には「〆切」と書かれた提灯を持つ〆切の長、両側には露払い役、さらにその後ろに榊を手にした裸衆が続きます。 一路、神社へ。 榊は風になびくように揺れ、これを「お山が動く」と形容する古老もいます。

参道

 境内入口(旧大鳥居)付近で御先供係と挨拶を交わします。 ここで〆切を出迎える御先供係の方は伝令も兼ね、挨拶を終えると、〆切が到着したことを伝えるため社殿に戻ります。

 〆切の集団は大鳥居、赤鳥居をくぐり、六ツ石へ。 六ツ石では〆切の提灯を大きく左右に振り、拝殿に〆切が来たことを知らせます。 山車も、六ツ石の北東隅の石の上に立ち、〆切が来たことを伝えるため、山車を回し「元門車」と書かれた背面を拝殿で見せます。 山車はここで〆切の手段を見送り、会所に戻ります。

堂入りの準備

 六ツ石、梅の木を抜け、いよいよ堂入りです。 拝殿では鬼踊りが最高潮に達し、幣殿では出御のための神事が粛々と進めらています。 〆切の到着を知ったお堂の裸衆は足拍子で、境内にいる見物人も手拍子で〆切を迎えます。 拝殿を前に榊を持つ裸衆はますます勢いが増し、榊が大きく揺れます。 気勢を上げる集団の前で、提灯を持つ〆切の長と露払い役は拝殿に向かい一礼します。 〆切の長が提灯を振り、堂入りの指示を出すと、榊を持つ一団は一斉に拝殿に駆け込みます。 最後の集団「〆切」の堂入りです。

 〆切が堂入りした拝殿はますます勢いを増し、激しい鬼踊りが繰り広げられますが、〆切は引き波のように速やかに拝殿を退去します。 拝殿にいる時間はわずか数分程度。 〆切は一団となり、拝殿から後押し坂付近に向かい、次の御役目に備えます。

後押し坂で

 激しい鬼踊りが行われている拝殿に堂入りした〆切は、速やかに拝殿を退去し、後押し坂付近に向かいます。 後押し坂付近に着くと、片手に榊を持った〆切の男たちは腰蓑を外し、参道の両脇に分かれます。 先頭には「〆切」と記された提灯を持つ〆切の長が立ちます。 この提灯は神輿が通過するまで灯すことが許されています。

 山神社で觸榊を受けた(神輿の渡御を知らせる)一番觸が「いちばんふれ~」と、連呼しながら〆切が待機する参道を走り抜けます。 しばらくすると、消灯を促す花火が打ち上げられ、町中の明かりが消され、今度は二番觸が「にばんふれ~」と連呼しながら走り抜けます。

漆黒の中

 神輿の出御の直前、漆黒の世界に包まれる中、最後の触れ番である三番觸が、続いて御先供と神官が通過します。 神輿の行列を先導する御先供長は〆切の長に近づき「さきとも~」と、〆切の長は「しめきり~」と、互いの役割を発声し、提灯の文字を見せ合います。 行列からは「頼むぞ~」の声が〆切にかけられます。

 神輿を先導するかがり火の明かりが徐々に近づき、大鳥居付近で消され、神輿がすぐそこに迫っていることが分かります。

 いよいよ神輿の通過です。 神輿の後ろには、少しの間隔をあけ裸の男たちが続いています。 〆切の長が提灯の火を消すと、これを合図に参道の両側に控えていた〆切の男たちは、一斉に道に広がり、榊を振りながら、裸の男たちと神輿の間に割って入ります。 裸の男たちを制止する〆切の一団と、神輿に続こうとする裸の男たちとの対峙が数分間続きます。 坂を下る裸の男たちの勢いに押されながらも、旧大鳥居までの境内で、榊を振り、スクラムを組み、神輿に不敬がないよう裸の群衆を制止します。 この間、〆切の長は神輿が動き出すタイミングをはかり、頃合いを見計らって〆を解くことを命じます。

榊納め

 〆が解かれると裸の男たちは堰を切ったように一斉に総社(淡海国玉神社)へ向かいます。 今年の役目を果たした〆切は、裸の男たちの後を追い、総社に着くと榊を納めます。

〆切とは

 裸祭の中の「〆切」の役目は上でも紹介しましたが、榊で神輿が渡御する参道を清め、神域と現世を隔てる結界を切り、神輿が神社からの出御を促すことで、神輿の出御の神事にかかわることと、神輿に不敬がないよう裸の群衆を制止することです。

 京都祇園祭には、前祭さきまつりの山鉾巡行の先頭を進む長刀鉾が、八坂神社の聖域に入るため、結界であるしめ縄を切る神事、稚児の「しめ縄切り」があります。 裸祭の「〆切」にもこれと同じ意味があったと考えられます。 「〆」はしめ縄のことで、「〆切」とは神域と現世を隔てる結界の意味を持つ「しめ縄」を切ることです。

 鎮魂のため激しく足を踏み鳴らす行為、大地を踏みしめる行為を反閇へんばいと呼び、鬼踊りや道中練りも反閇の一つであるとの意見があります。 鬼踊りが最高潮に達し、神社境内が清められたとき、最後の集団である〆切が堂入りし、手に持つ榊で神社の結界を切ることで、矢奈比賣神社の祭神の出御を可能としたのではないでしょうか。

 〆切は「元門車」が先陣から伝えられた御役目で、裸祭にとって重要な神事の一つです。 このお役目に誇りを持ち、将来に伝えていくことが元門車の使命であることを言い聞かせながら、今年も裸祭に臨んでいきます。